
先日、グループ展「YOU WANT SOME」が無事に会期を終えました。
会期を通してたくさんの方に足を運んでいただき、作品の前で生まれる会話や表情に、キュレーターとして何度も胸が熱くなりました。
そして、この展覧会をもって会場であるアートスペース「chignitta(チグニッタ)」がクローズしました。
好きな場所が一つ消えてしまう寂しさと、最後の展示を任せてもらえたことへの感謝。
その両方の気持ちを、しっかり言葉に残しておきたいと思い、本記事を書いています。
「YOU WANT SOME」とは?



”YOU WANT SOME”とは、『少しいる?』など、自分の好きなものを人に勧めるニュアンスのフレーズで、フリーランスキュレーターの池田誠さんが立ち上げた企画展です。
ジャンルもバックグラウンドも異なる、アップカミングなアーティストを毎回紹介されています。
今回、池田さんにお声がけいただき、それぞれ2名ずつキュレーションしようという形になりました。
商業施設とは違う、chignittaならではの密度のある空間で、作品と、お客さまの視線と、作家同士の会話が何層にも重なっていく。
そんな「実験の場」としてのグループ展でもありました。
作家を選んだ理由と、それぞれの魅力
今回の作家選定では、いつも自分が大切にしている二つの軸をあらためて意識しました。
1つは「先駆性・独自性」。
誰かのコピーではなく、自分の言葉と線で世界を立ち上げているかどうか。
もう1つは、「自分の表現を守りながらも、大衆にアプローチできる要素を持っているか」。
難解さやストイックさだけではなく、ふとした瞬間に“かわいい”とか“かっこいい”と感じてもらえるような開口部があるかどうかです。
【mukuさん】

①人物のデフォルメが絶妙:かわいさに寄せ切らず、ちょっと“間の抜けた顔・体つき”で、人間の愛おしさが残る点に惹かれました。
②色が明るいのに、感情は複雑な人物に魅力を感じました。陽気な配色でも、どこか静けさや哀愁が混ざるので、印象に残ります。
③“日常のワンシーン”を、少しだけ非現実にずらしているところが良いと思います。普通っぽいのに、普通じゃない。そこが観る側の記憶に残ります。
【akimi kawakamiさん】

① 配色の設計がうまい。色数が多くても破綻せず、主役が迷子にならない点が良いと思いました。
② パターン/質感(ドットの表現など)で“空気”を作っている。フラットなのに温度があるところに、惹かれました。
③ 装画・広告に接続できる強さがある。一枚でも鑑賞者に伝達力がある点も魅力を感じました。
会場で交わされた言葉、残った景色
会期初日の土曜日は「YOU WANT SOME」のギャラリートークでした。
chignittaの谷口さんが司会をしていただき、キュレーターの池田さんと僕、そして MUKU さん、玉村 聡之 さん、SYURI YOSHIDA さんと一緒に、展覧会のテーマや作品についてじっくり話しました。


このトークの模様を、Spotify PODCAST「チグニッタの谷コレ」#68 で配信していただいています。
会場に来られなかった方も、ぜひ聴いてもらえたら嬉しいです。
会期中は、作家とのトークや、来場者との立ち話が何度も生まれました。
展示をきっかけに、作家とお客さまが直接つながったり、次の仕事の相談が始まったりもしていて、
キュレーションという行為が、単なる「選ぶ」ではなく、「関係を生み、次につなげる」ことなのだと、あらためて教えられました。
chignittaという「場」がくれたもの

chignittaは、靱公園の緑が窓いっぱいに広がる、気持ちの良いアートスペースでした。
ギャラリーでありながら、カウンターがあり、作品を眺めながらコーヒーを飲んだり、ふと雑談が始まったりする。
「展覧会を見に行く」というより、「ちょっとあの場所に顔を出しに行く」に近い距離感で通える場所。
そんなアートスペースは、ありそうでなかなかありません。

僕が運営している「TURFLINE」のTシャツを取り扱ってくださったのも、chignittaが最初期のひとつでした。
「アート×フットボール」というコンセプトを面白がって棚を空けてくれたことを、今でもよく覚えています。
ここで出会えたお客さまや作家とのご縁は、そのまま「N ART」や「TURFLINE」の活動へとつながっていきました。
自分にとってchignittaは、「仕事場」であり、「学校」であり、「秘密基地」のような場所でもありました。
最後の展示としての「YOU WANT SOME」、そして感謝

そんなchignittaが、今回の「YOU WANT SOME」を最後にクローズしました。
最後の展示を任せてもらえたことは、プレッシャーでもあり、何より光栄なことでした。
オーナーの谷口さん、スタッフの皆さん。
本当にありがとうございました。
TURFLINEもN ARTも、chignittaがなければ、今のかたちはきっとなかったと思います。

そして、chignittaでの展示やイベントに足を運んでくださったすべての皆さまにも、心から感謝しています。
あの空間で交わした会話や時間は、それぞれの中に小さな記憶として残り続けるはずです。
これからも「アートとモノ、場所」をつなげていく
場所としてのchignittaは終わりますが、
そこで育まれたネットワークや価値観は、これからも自分の活動の核であり続けます。
今後は、TURFLINE POP UPをはじめ、N ARTとしても新しい場所や企業とのコラボレーションを準備しています。
どこかの街の、別のスペースで、また「YOU WANT SOME」のような熱量を持った企画をお届けできればうれしいです。
水野